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BMW meets Quantum

BMW


Quantum

とうとうM3にもV8が載りました。
やはり長大な直6のパッケージングには限界があり、 重心位置の高さも 課題としてあったのでしょう。
それと昨今のパワー競争。
ユーザーの興味が集中するFIA-GT選手権でも、ライバル達は早々に排気量を3.8~6.3リッターに上げ450ps~550psを、しかも低回転で獲得してきました。直6のままでは3.2リッターが上限か?

それで E92 M3。
乗ってみると、ストリートレベルでのトルクの厚さを実感。しかし、高回転域の吹け上がりはE46 M3 に軍配が上がります。箱の大きさも一昔前のM5サイズ。この大きさで車重を押さえるためには、薄板の高張力鋼板を使用したのであろうことが予測されました。
正直、シャーシの固さは優れた材料を使って薄肉化していっても、現代の構造解析技術であれば十分可能です。しかし、路面のデコボコに対する急な入力に対しては、ある程度の肉厚も必要なことも確かです。
意外と知られていない、レーシングカーの補強。例えばフロントのTOPマウントが装着されるストラットタワー部分では、t=1.5mm の鉄板を3重から4重にした上で、ロールゲージのように3方向からパイプの補強を張り巡らします。
アルミ削り出しTOPマウントはt=25mm~35mm。
市販の安価な部品が 6mm~8mm であることを思えば、いかにフロントエンジン、フロントストラットの車体には、部分的な補強が重要であるかを実感できます。特に薄板の高張力鋼板を使用した最近の車では。

Example ::

例えばランエボ。
Evo5~Evo8までの車体ではシャーシパネルに使われていた鉄板が厚く、フロントに16k のバネを入れて縮み側の減衰力を60~70kgf まで上げてもミシリとも言わず、しっかりと足を動かせていました。
しかしEvo9になって、軽量化と剛性 UP のために薄板の高張力鋼板が採用されると、基本的なシャーシはジオメトリーも含めてEvo8と共通であるにもかかわらず、10k のバネならまだしも 12kや14kのバネを入れると、ブリキのおもちゃをペコペコ鳴らすような鉄板の音が、室内にまで侵入するようになってしまいました。
しかも、たとえ10kのバネレートであっても、縮み側減衰力が60~70kgf では同様の音が止まらず、35~45kgfまで弱くしなければなりませんでした。当然、ハンドリングに関しては大きな妥協がされたことは否定できません。

E92 M3はFRONT=10k~12k / REAR=12k~16k 位のバネレートであれば、E46 M3の FR=9k~10k / REAR=12k~14k と同じ様な感覚で、高級車としての乗り味を十分に楽しめます。

しかし、サーキットでのスポ−ツ走行を楽しもうとして FRONT=16k~20k / REAR=20k~28k を入れると途端に、ストリートでギャップに足を落とす時など、ガチャンという鉄板の音が容赦なく室内に入り込み、ロールもどこかに部品が当たって止まってしまったかのような錯覚に陥ります。
E46 M3どころか、ユーロカップに出ている E36-318でさえ FRONT=16k / REAR=28k を入れてもこんな異音はしません。
残念ながら、薄板の高張力鋼板の弊害が出てしまっているようです。
シャーシ剛性は十分にあるのですが・・・・・・・・。

ダンパーの減衰力は、直6のE46 M3がアンダーステアを理由に、セッティングとしては縮み側減衰力を弱めにセットしていました。路面のデコボコに対するハーシュも、従ってボディに衝撃が伝わるようなことはありませんでした。
V8-4.0NAを載せたE92 M3では、車体の大きさ、重さから来る動きを制御していくと、E46 M3とは対照的に縮み側減衰力をどんどん強めにしていく方が、高速での安定性が良くなりました。
しかし、バネレート同様、E92 M3で減衰力を上げていくと FRONT=10k~12kのスプリングであってもガチャンという鉄板の音が容赦なく室内に入り込んできます。

コンフォート~ツーリングでセットアップするなら何の問題もないのですが・・・・・・・。
バネレートもノーマルより十分に固く、減衰力もE46 M3よりも強く、でもフロントの縮み側減衰力は控えめという仕様であれば、高級感ある乗り味。
ただし、国産車のリミッター以上ではクルージング程度。
それ以上のハンドリングや高速安定性を求めるのであれば、車体の鉄板の音を我慢するか、ボディ補強を検討してみてください。
BMWから補修部品で出ているストラットタワー部のボディパネルを使って、2枚重ねをするとかの対策はショップさんの必須アイテムになると思います。


Another subject ::

話は変わって、サスペンションのレバー比とバネレートの関係を。
E92 M3のサスペンションは、ダンパーが10mm 動くとフロントホイールは12mm、リアホイールは16mmストロークします。つまり、FRONT=1 : 1.2 / REAR=1 : 1.6 のレバー比と言うことになります。
フロント・スプリングのバネレートが10kの場合、1 : 1 に換算したホイールレートは 8.3k。
リア・スプリングのバネレートが12kの場合、1 : 1 に換算したホイールレートは 7.5k。
以上のように、10k/12k のバネレートは実質 8.3k/7.5k と言うことになります。

E92 M3は重量配分が良く、FRなのにリアの軸重が十分にあるため、そもそもリアがストロークしやすいところに持ってきて、V8のトルク特性、それをトラクションに変えるジオメトリーと相まって、リアは良く動く特徴があります。
従って、前後バランスはリアのホイールレートはフロントより固いくらいが正解で、12k/16kのバネレートで実質 10k/10kと言うことになります。

ヨーロッパではリアをコイルオーバーにするのが流行っています。
本来、ダンパーの減衰力だけを受け持っていた部分に、スプリングの荷重を掛けるには相当なボディ補強が必要です。しかし、そんなヨーロッパーの情報を勘違いして、リアのコイルオーバーを前提とした FRONT=22k / REAR=18k (ホイールレートで 18k/14k)のバランスを、ノーマルフレームで実戦しているところがあるようです。
この場合同じ 22k/18k のホイールレートは 18k/11k なので、バランスとしてはアンダーステアです。
サーキットにおけるセオリーは、FRONT=18kならREAR=26kで実質 15k/16kとなります。

車高に関しては、E92 M3は下げづらい車です。
ホイールハウス内の下げシロは十分にありますが、リアのアッパーアームが、ストロークをしていくとあっけなく車体に干渉してしまいます。
コンフォート〜ツーリングくらいのバネレートであれば、STD-20~25mm ダウンが限界です。
リアのバネレートを20k 以上にすれば、車高をSTD-35~45mm ダウンまで持って行けると思います。
いずれにせよ、QRSのリアスプリングには車高調整機能を盛り込んでいますので、商品を車に装着して仕上げる側=ショップ様の技術にゆだねられる割合もありますので、技術力のあるショップさん選びは慎重に。
チューニングショップの工賃というのは、本来、車を仕上げてお客様に渡すことが根拠であり、仕上がりはショップの問題ではなく部品交換の手間賃が工賃の根拠だと言うところは避けた方が賢明です。
E92 GTS の車高はリアスプリングが30k のバネレートだから成り立つことをお忘れなく。